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東京高等裁判所 平成元年(ネ)2585号 判決

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 石川隆

被控訴人 乙山花子

右法定代理人後見人 丙川夏子

右訴訟代理人弁護士 千葉憲雄

同 金綱正巳

同 鶴見祐策

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年三月一二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一・二審(差戻前の分を含む)とも被控訴人の負担とする。

この判決は主文第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者双方の事実の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書二枚目表八行目の「敏行」を「盛行」に、同裏七行目の冒頭の「3」を「3(一)」にそれぞれ改め、八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(二) 仮に被控訴人が(一)に主張する代理権を与えた事実が認められないか、又は抗弁が認められたとしても、本件予約の効果は次の理由により被控訴人に及ぶというべきである。

(1)  本件建物は、被控訴人名義の旧建物を取り壊した後に建築されることが予定されていたものである。ところで、旧建物は、もと被控訴人の父乙山春夫の所有であった。同人は昭和四〇年に死亡し、妻松子、長女春子、次女夏子、三女被控訴人、長男一郎が相続人であったが、相続人間で遺産分割協議が成立したということで旧建物の登記名義は被控訴人になっていた。このように旧建物は被控訴人の父乙山春夫の遺産であったから、本来相続人たる妻松子、長女春子、次女夏子、三女被控訴人、長男一郎らが法定相続分の割合で相続したものである。そして、被控訴人が財産管理処分能力のないことは他の相続人全員が知っていたことであるから、遺産分割協議が成立したということで旧建物の登記名義を被控訴人名義にしたのは、相続人ら全員が被控訴人と同居し、同人の身の周りの世話をしていた松子及び春子が被控訴人名義で旧建物を管理処分することを承認したもの、すなわち、松子及び春子に対し、旧建物の管理処分権を付与したものというべきである。したがって、同人らは被控訴人の代理人として被控訴人名義で本件予約を締結する権限を有していたものというべきであって、被控訴人の代理権授与行為ないしは同人の意思能力とは関係がなく、代理権が認められてしかるべきである。

(2)  旧建物が(1)に述べた経緯で被控訴人所有名義とされていたことは(1)に主張したとおりであり、控訴人は昭和四三年五月から旧建物を賃借してきたが、当初賃借する際の交渉も春子との間で行い、それ以来長年にわたり賃料は春子又は松子に支払ってきたし、賃料改定や賃貸借の更新も春子又は松子と交渉して決定してきた。たまたま昭和五五年頃から旧建物の敷地を含む土地上にいわゆる等価交換方式で本件建物を含むビルを建築する話しが持ち上がり、これを実現するためには旧建物を賃借している控訴人がいったん旧建物を明渡すことが必要となった。そこで春子、松子及び夏子は控訴人との間で、控訴人が旧建物を明渡し、被控訴人が右等価交換により取得する予定の本件建物を控訴人に賃貸する旨の賃貸借の予約をすることにしたものである。もともと被控訴人の財産は、被控訴人と同居している春子、松子及び同人らの住居の近くに居住する夏子が、二〇年近く事実上の後見人としての立場で管理してきたものであり、これについて何人も異議を述べたことはなかったし、むしろ本件予約は被控訴人及び春子、松子、夏子の意向にそい、同人らが希望する前記等価交換契約締結のため不可欠の前提となる契約であったのである。本件予約につき控訴人が春子、松子及び夏子と交渉したのは、被控訴人が聾唖者で知能が遅れていたため春子らが被控訴人の事実上の後見人としてそれまで同人の財産を管理してきたという実情にあり、控訴人もこのことを基にして被控訴人に関する交渉、契約を春子らが行うことを当然と考えていたからである。このような経緯から本件予約の交渉は、被控訴人の事実上の後見人である春子、松子及び夏子により進められ、本件予約は、同人と同人らが被控訴人のために依頼した福田弁護士とが被控訴人を代理して控訴人と締結したものであり、本件予約の締結については、被控訴人と春子、松子、夏子らとの間になんら利益相反の関係もなかった。以上のような本件予約が締結された経緯からすれば、本件予約が被控訴人の保護に欠けるところはない。

春子、松子及び夏子は、右のとおり二〇年近く被控訴人の事実上の後見人の立場で被控訴人の財産の管理を続け、被控訴人の代理人として、本件予約を締結しておきながら、本件訴訟の差戻前の第一審において、本件予約に基づく控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権を認容する判決が言い渡されるや、自らが代理して締結した本件予約を無効にするため、禁治産宣告の申立てをし、後見人に選任された夏子をして本件予約の無効を主張させるに至ったものである。右禁治産宣告の申立て及び本件予約の無効の主張は、無能力者制度の悪用というべきであり、許されないものというべきである。

そうでなくても後見人に選任された夏子自身も、当時、本件予約の締結に関与していたのであるから、後見人となった後になって、本件予約の追認を拒絶し、本件予約が無効であるとしてその効力を争うことは、被控訴人らの意向にそって本件予約を締結し、これを信頼して旧建物を明渡した控訴人の信頼を裏切り、取引の相手方である控訴人の利益を著しく侵害するものであって信義に反し又は権利の濫用として許されない。」

2  原判決書三枚目表五行目の「事実は」の前に「事実のうち、旧建物は被控訴人の父乙山春夫が所有していたこと、その相続人は配偶者の松子、長女春子、次女夏子、三女被控訴人、長男一郎であったこと、遺産分割協議が成立したということで旧建物の登記名義が被控訴人になっていたことは認めるが、その余の」を、六行目の末尾に「また、相続人らにおいて松子及び夏子に旧建物の管理処分権を付与したこともない。」をそれぞれ加え、同裏七行目から同四枚目裏七行目までを削る。

第三  《証拠関係省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、本件予約は、被控訴人側は被控訴人の姉である春子、夏子及び同人らから委任を受けた福田弁護士が立ち会って締結されたものであり、右契約書の被控訴人欄の記名は春子が被控訴人に代わってしたことが認められ、右契約書には控訴人主張のような違約条項があることを認めることができる。

二  そこで、本件予約が被控訴人に対して効力を及ぼすかどうかについて判断する。

1  まず、控訴人は、被控訴人は本件予約締結当時、姉である春子、夏子及び母である松子に対し、自己の財産の管理処分について包括的な代理権を与えていた旨主張する。しかしながら、《証拠省略》によれば、被控訴人は生れつきの聾唖者で、成長期に適切な教育を受けなかったために精神発達遅滞の状態にあり、読み書きもほとんどできず、六才程度の知能年齢と推定されること及び昭和六一年八月二〇日横浜家庭裁判所で心神喪失の常況にあるものと認定されて禁治産宣告を受けたことが認められ、被控訴人は本件予約当時権利関係を理解して自己の財産を管理するだけの能力はなかったと認められるのであって、代理権を付与する精神的能力もなかったと認めるのが相当である。《証拠省略》によれば、被控訴人は親や姉弟などの家族に対してはある程度自分の意思を伝えることはできたことが窺われ、外形的には姉である春子や夏子にすべてを委せる旨の意思を伝えることくらいはできた可能性はあるが、このことを考慮しても被控訴人が春子に代理権を与える意思表示をしたとは認め難いところであり、少なくとも被控訴人が意思無能力であったとの抗弁は理由がある。

控訴人は、被控訴人を禁治産者とする旨の申立は、被控訴人に対し損害賠償を命ずる判決(差戻前の一審判決)が言い渡されたため、被控訴人名義でなされた本件予約の無効を主張するために春子らによりなされたものであって、無能力者制度の悪用であり許されないと主張するが、このことは別の事由により本件予約の効力を主張するに際して意味を持つことがあるにしても、被控訴人の客観的な意思能力の有無の認定を左右するものではなく、右禁治産宣告の申立の意図いかんにかかわらず、被控訴人が本件予約締結当時意思能力がなかったとの事実の認定を左右しうるものではない。無効の主張が許されるかどうかは後に改めて判断するところであるが、それはともかくとして、被控訴人が本件予約締結当時春子、夏子、及び松子に対し、右契約締結に必要な代理権を与えていた旨の控訴人の主張は理由がない。

2  次に、控訴人は、仮に被控訴人が春子らに代理権を与えていたとの主張が認められないとしても、被控訴人の父乙山春夫が所有していた旧建物の所有名義を意思無能力者であった被控訴人名義にしたのは、旧建物の共有者である相続人ら全員の意思により、被控訴人の世話をしていた松子及び春子に対し、旧建物につき被控訴人名義で管理処分する権限を付与したものというべきであると主張する。そして、旧建物を被控訴人の父乙山春夫が所有していたこと、同人は昭和四〇年三月二日に死亡し、その相続人は妻の松子、長女春子、次女夏子、三女被控訴人及び長男一郎であったこと、遺産分割協議が成立したということで旧建物の登記名義が被控訴人名義になっていたこと自体は当事者間に争いがない。また、《証拠省略》によれば、被控訴人が知恵遅れで将来自活していくだけの能力のないことは、被相続人であった父春夫も被控訴人を除く相続人ら全員も判っていたので、相続人らが相談の上、被控訴人の将来の生活の資に充てるため、被相続人であった父春夫の遺志に従い、父春夫の所有であった旧建物の登記名義を被控訴人名義にしたものであることを認めることができる。しかしながら、被控訴人を除く他の相続人が春夫の遺産である旧建物を被控訴人に相続させることとして被控訴人所有名義で登記がなされたとしても、肝心の被控訴人を除外してなされた処置を前提として旧建物についての春子ないし松子の管理処分権限を基礎付けるには無理がある。控訴人の主張は常識的な議論としてはもっともなところがあるが、法的な理論構成に難があり、そのままには採用することができない。

3  控訴人は、さらに、従来から春子、松子及び夏子は長年にわたり被控訴人の事実上の後見人としての立場で被控訴人の財産を管理してきたものであり、控訴人はこれを信頼して春子らとの間で被控訴人名義で本件予約を締結したのに、本件予約にも立会うなどこれに関与してきた被控訴人の後見人夏子がいまさら本件予約の効力を争うことは信義に反し又は権利を濫用するものである旨主張する。

そこで本件予約締結に至る経緯を検討する。

旧建物は春夫の遺産であって、相続人である妻松子、長女春子、次女夏子、長男一郎が被控訴人とともに共同相続したものであるが、その後相続人らが相談した結果、遺産分割協議が成立したということで、旧建物は被控訴人名義になっていたことはすでに判示したとおりである。そして《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

昭和四〇年に父春夫が死亡したことにより、旧建物の所有権及びその敷地の借地権は被控訴人が相続したことにしたが、被控訴人は知恵遅れで財産管理能力に欠けることが判っていたので、被控訴人を除く相続人ら全員の意思により、以後の被控訴人の身の周りの世話は被控訴人と同居していた松子及び春子がすることになり、旧建物の管理も主として春子が面倒を見ていくことになった。昭和四三年に控訴人に旧建物を賃貸することになった際も、春子が控訴人との交渉を一手に引き受け、同年五月に被控訴人名義で控訴人との間で賃貸借契約を締結し、契約書を作成する際には春子が被控訴人名下に被控訴人の印鑑を押捺した。控訴人は旧建物において食肉店を経営していたが、控訴人が支払う賃料はいつも春子又は松子が受領していたし、賃料改定や賃貸借の更新等の交渉にも春子が当ってきたが、その間他の相続人らからもなんらの苦情もなかった。その後昭和五五年になって旧建物の敷地を含む土地上に訴外甲田株式会社がいわゆる等価交換方式によりビルを建築する計画が持ち上がり、右ビルを建築するためには控訴人が賃借している旧建物を取り壊す必要があったため、控訴人にはいったん旧建物から立ち退いてもらった上で、ビル新築後に被控訴人が取得する本件建物を控訴人に改めて賃貸することにつき繰り返し協議がなされたが、この交渉にも主として春子が当たり、同年九月一九日には本件建物を控訴人に改めて賃貸する内容の合意書が控訴人との間で作成されたが、この合意書も春子が被控訴人に代わって記名をして被控訴人の印鑑を押捺した。同年一一月一四日に作成された合意書にも春子が被控訴人の記名をして被控訴人の印鑑を押捺している。その後春子及び夏子は川崎市の法律相談で知った福田盛行弁護士に右合意書の内容を検討してもらうとともに、控訴人との間での本件建物の賃貸借契約の契約条項の作成を委任し、同弁護士は契約書の原案を作成して控訴人にも提示するよう指示した。これに対し控訴人も弁護士に依頼して対案となる契約書案を作成して春子及び夏子に交付した。春子及び夏子と福田盛行弁護士は控訴人から交付された契約書案をも検討した上、双方その内容に合意して作成されたのが本件予約契約書である。右作成に当たっては昭和五六年二月一七日、福田盛行弁護士の事務所に控訴人、春子及び夏子が集まり、予め福田弁護士が合意に基づきタイプしていた契約書に春子が被控訴人名義で記名し、その名下に被控訴人の印鑑を押捺した。本件予約が締結されたことにより、被控訴人を含む土地の権利関係者と訴外甲田株式会社との間で昭和五六年五月七日にビル建築について等価交換契約が締結されたが、これも被控訴人に代って春子らが交渉に当たり、契約書に押印した。こうして、控訴人は旧建物を明け渡し、旧建物が取り毀されて、本件建物を含むビルの建築工事が初まり、昭和五七年八月にビルが完成したが、右完成前である同年四月頃、春子は丁原夏夫を通じて控訴人に対し本件予約の履行を拒む意思を表明したので、控訴人は同年五月一〇日及び二六日に内容証明郵便で、被控訴人宛て本件建物を被控訴人に賃貸するよう求めたが、被控訴人側はこれに対しなんらの返事もせず、同年六月一七日付で訴外戊田秋夫に対し本件建物を借入金の担保として譲渡した(未登記)。そこで控訴人は同年七月九日被控訴人を債務者として本件建物についての甲田株式会社に対する引渡請求権の処分禁止の仮処分決定を得るとともに、同年八月三日本件予約に定められた違約の際の損害賠償請求権を被保全権利として本件建物につき仮差押えをした。ところが、控訴人が被控訴人に対して提起した本件損害賠償請求訴訟において昭和六一年二月一九日控訴人勝訴の判決がなされた直後である同月二一日付で、春子は横浜家庭裁判所に対し被控訴人を禁治産者とし後見人に春子を選任するよう求める申立をし、同年八月二〇日被控訴人を禁治産者とするとともに夏子を後見人とする決定がなされた。

以上のとおり、控訴人と被控訴人との間では、長年にわたり旧建物についての契約関係は春子が被控訴人の事実上の後見人として被控訴人の名義のもとに処理してきたものであり、本件建物も被控訴人の所有としてすべての法律関係が処理されてきたのであり(後見人も本件建物が被控訴人の所有となったことまでは否認していないし、いまさらこれを否認するわけにもいくまい。)、本件予約もこのことを前提に従前と同様に春子が被控訴人の事実上の後見人として被控訴人の名義のもとに締結したものである。しかも、本件予約を締結するに至ったのは、被控訴人らにおいて前記等価交換契約を締結する前提として必要であったからであり、本件予約は春子、松子、夏子らの意向にもそうものであったし、右契約内容についても弁護士に依頼して検討してもらった上で合意したものであって、決して被控訴人の利益を害するものではない(むしろ、被控訴人としては、等価交換契約により、費用を負担することなく本件建物を取得することができるのであり、その前提となる本件予約は被控訴人にとって利益となる面も多い。)。ところが、控訴人は本件予約を信頼して従前賃借していた旧建物を明渡したところ、本契約の締結を被控訴人側から一方的に拒否されたものであり、被控訴人側に当時本件予約に基づく本契約の締結を拒むだけの合理的理由は見当たらない。また、夏子自身も本件予約についてはその交渉の段階から関与し、締結の際にも立ち会っていてその内容については十分了知していたと認められるところである。

右認定の本件予約締結に至る事情に照らせば、被控訴人名義に基づく権利関係が長期間存続し、何人もこれに異議を述べていなかったのであるし、無能力者である被控訴人の利益の保護についても十分考慮が払われていたといえるのであるから、このような場合には契約の効力を判断するにつき取引の他方当事者である相手方の保護も十分考慮されなければならないというべきであり、契約の名義人が無能力者であったからといって、事実上後見人としての立場から行動していた者が後に後見人に選任されて右契約の効力を否定しまたは無効を主張することは信義に反し許されないと解するのが相当である。本件においては被控訴人に代って本件予約をした春子自身がその後後見人に選任されたわけではないが、実際に後見人に選任された夏子も事実上の後見人と同じ立場で行動していたとみることができ、後見人に選任されたのが春子であれ夏子であれ、あえて区別して論じるほどの差異はない事案というべきである。被控訴人らは、控訴人が被控訴人らから本契約の締結を拒否された後に自己の権利を確保しようとしてなした種々の行為につき非難するが、控訴人としてはもともと借家人としての権利を有していたのであるから、右権利を確保しようとしたことを非難することは一方的に過ぎる。

念のため附け加えておく。無能力者制度が無能力者の利益保護のための制度であることは、原判決のいうとおりである。しかし、ここにいう利益保護とは、全体としての利益保護をいうのであって、無能力者に一切の不利益を負わせないということではない。本件予約に即していえば、被控訴人がいわゆる等価交換方式により、旧建物の代りに本件建物の所有権を取得するための前提として、控訴人に旧建物をいったん明け渡してもらうためになされたものであって、すでに述べたとおり、全体として被控訴人の利益に反するものではない。賃借人であった控訴人が後に本件建物を賃借することができないような場合に備えて、違約金の定めがなされているのは、控訴人側の権利を確保する上で必要であったからにほかならず、この部分だけを捉えて被控訴人の不利益とみるのは当たらない。被控訴人としては、約束を守ればなんの不利益もなく済んだことである(約束どおり実行するのも、無能力者自身ではなく、事実上の後見人がすることになるが。)。約束どおりのことを実行しないでおいて無能力者の利益保護をいうのは信義にもとるといわれてもやむを得ない。後見人としても、こうした見地から公平に判断すべきであり、本件において、追認を拒絶して本件予約の効力を争うのは、信義に反し、許されないと判断するゆえんである。

以上によれば、被控訴人は本件予約に基づき控訴人に対し損害賠償金の支払義務があると認められる。

三  以上のとおりであって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決を失当であるからこれを取り消し、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 滿田明彦 亀川清長)

〈以下省略〉

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